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きっと、それは思いもよらない言葉だったんだ。
美里ちゃんは目を大きく見開いたかと思うと、眉根をぎゅっと寄せた。
「ひどいっ。そんな事言うなんて、渉くん、冷たいよ!」
怒った美里ちゃんは、俺を押しのけて部屋から出ようとした。
しかし、このまま返しちまえば彼女は辻本さんの元へ戻ってしまう。そして、あの濁った甘い罠にどっぷり浸ってしまうだろう。
そんなの、許さない。
「……簡単に行かせる訳ねえだろ」
玄関で靴を履く彼女の肩を、俺は勢い任せに掴んだ。
そのせいでバランスを崩した彼女を背後から抱きすくめると、小さい頃は美里ちゃんの方が大きかったその体は、俺の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
ただ、彼女の中から辻本さんを追い出したいだけなんだ。
独身と偽って、悪戯に彼女に迫る辻本さんに本気で腹が立つ。
「……辻本さんに、背中の傷痕見せんなよ」
その言葉に、彼女は驚いたように振り返った。
間近で見る美里ちゃんは、やっぱり昔のままだ。
その目に引き寄せられるようにキスを落とすと、一瞬美里ちゃんの体が震えた。
そして戸惑うように俯いた彼女は、俺の腕を解くと何も言わずに部屋を出て行った。
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