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昨日、俺の働くホテルにブライダル雑誌「アンジェラ」の営業として彼女は来た。
「中村より担当が代わりました。小野寺美里と申します」
彼女は俺と、俺の先輩にあたる辻本さんに自分の名前の入った名刺を渡した。
営業食いで有名な辻本さんは、彼女を見てこっそり自分の結婚指輪を外した。
あーあ。
前の中村さんと同じように、こいつも辻本さんに食われちまうのか、と思った。
人当たりの良い笑顔で辻本さんは美里ちゃんから名刺を受け取る。
ーーこの時、わざと相手の手を少し霞めるのが辻本さんの常套手段だ。
「あっ、すいません。手が触れてしまいましたね」
なんて言いやがって、女性に意識させるんだ。
そしてやっぱり触れた事に意識した彼女は顔を赤らめていた。
美里ちゃんに再会したのは何年ぶりだろう。
俺が小2の時だったか?
だとしたら18年ぶりか。
俺もよく気付いたもんだよ。
美里という名前だけ覚えてて、苗字なんて知らなかった。小野寺さん、だったのか。
「そちらは小林渉さん、ですね。よろしくお願いします」
そう言う彼女は、俺の事なんて全く覚えていなかった。
そりゃそうだ。
スーツで髪もオールバックにして、昔はかけていなかったメガネもしてて、面影はほとんど無い。
俺には挨拶程度の笑顔を向けて、彼女は辻本さんと話をしていた。
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