第1章

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昨日、俺の働くホテルにブライダル雑誌「アンジェラ」の営業として彼女は来た。 「中村より担当が代わりました。小野寺美里と申します」 彼女は俺と、俺の先輩にあたる辻本さんに自分の名前の入った名刺を渡した。 営業食いで有名な辻本さんは、彼女を見てこっそり自分の結婚指輪を外した。 あーあ。 前の中村さんと同じように、こいつも辻本さんに食われちまうのか、と思った。 人当たりの良い笑顔で辻本さんは美里ちゃんから名刺を受け取る。 ーーこの時、わざと相手の手を少し霞めるのが辻本さんの常套手段だ。 「あっ、すいません。手が触れてしまいましたね」 なんて言いやがって、女性に意識させるんだ。 そしてやっぱり触れた事に意識した彼女は顔を赤らめていた。 美里ちゃんに再会したのは何年ぶりだろう。 俺が小2の時だったか? だとしたら18年ぶりか。 俺もよく気付いたもんだよ。 美里という名前だけ覚えてて、苗字なんて知らなかった。小野寺さん、だったのか。 「そちらは小林渉さん、ですね。よろしくお願いします」 そう言う彼女は、俺の事なんて全く覚えていなかった。 そりゃそうだ。 スーツで髪もオールバックにして、昔はかけていなかったメガネもしてて、面影はほとんど無い。 俺には挨拶程度の笑顔を向けて、彼女は辻本さんと話をしていた。
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