第1章

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やっと気付いてもらえて、何故か安堵の息が漏れた。 なんだ。 俺、気付いて欲しかったんだな。 それから、美里ちゃんの態度は一転した。 昔のアパート時代を思い出して、食事をとりながら楽しそうにペラペラと話し出す。 「今思うと、あの時が一番幸せだったなぁ。渉くんと、しょっちゅう一緒に遊んでたよね」 「アパートの間取り、覚えてる? 俺、今住んでるアパートがそっくりなんだよ」 2人で共有している思い出はとても多い。 両親がお互い共働きだったから、常に一緒だった。 2人で勉強も遊びも、昼寝も一緒にしていた。 きっと、初恋、だった。 だから、あの時が一番幸せなのは、俺も同じかもしれない。 調子に乗った俺たちは生ビールを頼んで、この再会に乾杯した。 ーーーーそして 昔の思い出を引きずるようにして、気付けば美里ちゃんは俺のアパートに遊びに来ていた。 「本当だ。あのアパートにそっくり。欲を言えば、二階の真ん中じゃなくて一階の角部屋だったらもっと良かったのにね」 部屋に入った美里ちゃんは上機嫌で、遠慮なしに部屋を見ていく。 それは幼い頃に戻ったようにも思えた。けど、昔と違うのは俺が彼女にひどく触れたくなった気持ちだ。 アルコールを飲んだせいか、妙に喉が渇く。 俺は冷蔵庫の中のミネラルウォーターを一気に飲み干して、喉を潤した。
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