好きって言ってよ(後篇)

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しばらくは穏やかな日々が続いた。 あれ以来、アキとあたしはタツルのいない時などにぽつぽつと思い出話などをするようになった。最初は野上のことではなく、あたし、谷崎朱音となずなが初めて会った時のことなんかから、少しずつ。そこからだんだん話も広がっていって、終いにはごく普通に野上や娘のつむぎのことも話せるようになっていった。 「つむぎんとこ、二人目生まれたよ。男の子だった」 「え、そんな大事なこと、早く言ってよ」 アキは思いっきり口を尖らせた。だって、あんたが前世の話は受け付けないよオーラ全開だったからじゃん。 「しかし早いなぁ。あの子は結婚も早かったし」 「両親が二人でいちゃいちゃしてるから、さっさと出て行って自立しなきゃって思ったんでしょうよ」 「子どもの前でいちゃいちゃなんかしてないよ!」 アキは早口に言いながら、ちょっと辺りを気にする様子を見せた。タツルが不在ってわかっていても、やっぱりこういう話の時は少し神経質な反応が出る。 「そういうのははっきり見せてなくても伝わるもんなんだよ。いいじゃん、両親仲のいいのは嫌がってなかったでしょうが」 「あの子はあれでその辺、大人だったからなぁ…」 つまり小さい時から慣れっこだった、と。なずなはともかく、野上は一が『セリさん』、二がつむぎだったからねぇ。 「まりさはまだ結婚してないの?」 まりさは市井さん、なずな言うところの友明の娘である。野上家とは隣同士で小さい時から家族同然に育ったので、なずなからすると娘のようなものだ。 あたしは肩を竦めて答えた。 「彼氏はいるみたいだけどね。まぁでもさすがにそろそろするんじゃない。あんたがいなくなっても野上が自分に振り向いてくれないことははっきりわかっただろうし」 「そんなの、子どもの時の話でしょ」 なずなは不満そうに言う。いやいや、あの親子の不屈の片思い力、舐めたらいかんですよ。あんたがいなくなった後、微妙に当たって砕けてるの、あたし見たからね。 「しかし、友明がジュンタさんだったとはなぁ。…そうとわかってれば、生前もっと優しくしてあげればよかった…」 なずなは背中を伸ばし、嘆息した。 「あんたはジュンタには昔から甘かったからね。市井さんには打って変って厳しかったけど」 ここでふと、転生前のジュンタによるアキ襲撃未遂を思い出してしまったが、口には出さないことにする。
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