秘密の場所

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秘密の場所

「10年後、又ここで逢おう。約束だよ」 泣きじゃくる私の頭を撫でて、悲しそうに微笑む圭。幼い私は、親の転勤で海外に行くという事なんて理解できず、だた嫌でたまらなかった。  彼と出会ったのは半年前。私は小さい頃から絵を描くのが好きで、特に川から見る風景を描くのがお気に入りだった。 引っ込み思案で、学校でも大人しく友達も少ない地味な子。 でも絵を描く時は自分の思いを存分に発揮できるし、人と話をしなくても気分が紛れる。 好きな色を選んで想像を膨らませ、お気に入りの場所を自分の頭の中でシャッターを切るように、私のビジョンを表現できるからだ。  ある時、そんな私に声を掛けてきた男の子がいた。私の絵を褒めてくれて『綺麗な色で好き』と言ってくれた。私は恥ずかしさと嬉しさで、絵筆が止まってしまった。 それ以来学校から帰り、川に行くと男の子も来るようになり、私の隣で色んな話をしてくれた。学校であった事、家での事、家族の事…。 私は耳を傾けながらスケッチをしていたが、いつのまにか自らも話をするようになっていた。 初めての友達。上手く話せなくても、ニッコリと微笑んで聞いてくれる優しい男の子。私達はすっかり仲良くなり、川を散歩したりお菓子を交換したり楽しい記憶が少しずつ増え始めていた。  お互いに圭、久美と呼び合うようになった頃、彼が悲しそうな表情を見せ始め、引っ越しが決まった事を報告されてしまった。 私に光を照らしてくれた太陽みたいな彼が居なくなる事がショックで、私はお別れの日まで川に行けずにいた。 彼が笑顔でいてくれるから、私も笑顔にならないと。毎日泣いて過ごした私が、やっと落ちついたのがその日だったからだ。 いつものようにスケッチブックを持ち、川に向かうと圭に逢いたくて仕方がなかった。 私が何日か行かなかったから、もしかしたら来ないかもしれない。圭の家も知らないし、逢えないかもしれない。2人が知ってるのは、秘密の場所だけだから。 川まで走ってみたが、そこには誰もおらず私はガッカリとしながらスケッチブックを広げていた。もう逢えないかもしれない。私のせいで、圭が怒ったのかもしれない。
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