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お気に入りの風景を描いているのに、涙が止まらなくなって終いには泣きじゃくっていた。
「圭ゴメンね。いつも笑ってくれてたのに、私が笑顔になれないから来れなくてゴメンね」
スケッチブックに涙が零れ、前も霞んでよく見えない。川は私の涙を誘うように勢いよく流れ、夕日が反射してキラキラしている。
「もう帰ろうか…」
一式を詰めてもすぐには動けず、水が岩に当たって飛び散る雫を暫く見つめていた。
「良かった、やっと来てくれたんだね。最後に逢えないのは寂しいし、来てみたんだよ。」
「圭ごめんなさい、私…」
私の頭に手をポンとおくと
「きっと来てくれるって思ってた。僕と楽しい時間を過ごしてくれた、大切な子。もっと一緒にいて、一杯遊びたかった」
「うん…私だって、圭にここで逢えるのが励みだったんだもん。もう逢えない…とかヤダよ」
圭の笑顔を見ても、私の涙は止まらなかった。
「又10年後でここで逢おう。お互いの成長した姿を見て笑顔になろ?僕は絶対に忘れないから」
「ホントに圭来て…くれる?」
ヒックヒックと目を擦る私に、圭はお揃いの玩具のペンダントをくれた。私は、この景色を圭が忘れないように、お気に入りのスケッチを渡した。
「有難う。大切にするね」
2人が大好きな川の背景をバックに、圭は私の唇にそっとキスをした。
「久美、笑顔と約束忘れないでね…」
天使のような笑顔の圭に負けないように、私も真っ赤な目で作り笑いをした。彼が居なくなってからは、胸にポカンと穴が開いたようで、川には近づけなかった。
でも、もし本当に来てくれるなら、私も笑顔をクセづけておかないといけない。
絵を描く時が一番笑顔が出るので、美術学校を目指しして勉強をし、現在はイラストレーターの仕事を少しこなし始めている。
同じ事を目指す仲間が出来たり、私もオシャレに興味を持ったり、笑顔にチャレンジしてみると、以前より周りに人が増え始めた気がした。
逢う日が近くなって来ると、実は彼は妖精だったのかもとか、霊だったりして等と妄想が膨らみ落ち着かない。
彼の顔は月日が流れ曖昧になっているが、イメージはずっと私の心には刻まれている。
もし彼が来なかったとしても、今の私に変われたのは、紛れもなく圭のおかげだ。
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