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私はお守りとして、ペンダントをあの日からずっと持ち歩いていた。いつも勇気を貰える気がするから。
1人で川の風景を見ると、哀しい表情ばかりに見えていたが、時が経つにつれ川の周りの建物が増え、景色に変化を見せると、私のスケッチブックは何冊にも増え続けていた。
絵画展で賞を貰うようになってからも、川の風景は描き続けていたが、ここ数カ月は表情が上手く描けていない。
私はイラストレーターを目指しながら、図書館司書の試験も受けていた。
「行ってみようかな…」
今日は約束の当日。川に行くのも久々だし、忘れそうで忘れなかった小さい頃の約束を、どこか心待ちにしていたのだ。
スケッチブックとサンドウィッチ、水筒をカバンに詰め、2人が大好きだった場所を目指す。
圭は覚えてる訳ない。海外に行ったんだし、向こうの生活で私の事や約束なんて忘れてしまっているだろう。
でも、私はずっと覚えていた。圭と過ごした事、初めて友達が出来た事が私の心の支えだった。
思い出は薄れず、むしろ鮮明に私の中に刻まれている。顔はボンヤリとしているが、デニムにチェックシャツは覚えていた。10年という時が経っても。
私の初恋の人…綺麗な思い出のまま逢わない方がいいのかもしれない。どんな人になっているのか想像もつかないし、私の中ではあの時のまま止まっている。圭だって私を見て幻滅するかもしれない。
でも圭は、私が大人しかった頃から優しく声を掛けてくれる人だったので、少し化粧をしたり、オシャレに目覚めてしまった今の私を見ても、きっと大丈夫。歩きながら無駄な心配をしてはドキドキしていた。
『そもそも覚えている筈もないのに』
頭では分かっていても、川に近づくにつれ鼓動は高まるばかり。何度も見た景色なのに、今日の風景はいつもと違って見えた。川岸にはやはり誰もおらず、私は木陰の2人だけの場所に進んで行く。
木の根っこに荷物を置き、スケッチブックを広げてみた。約束の日の景色を描きとめておきたかったから。
あの頃の写真もなく、名前しか知らない彼との約束。記憶の中でしか存在しない私達の思い出。でも約束を守った記念として、何かを残しておきたかった。
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