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食事も取らず無心に描き続けていたので、気がつけば太陽の色が濃いオレンジ色に変わっていた。
私は水筒の紅茶を飲みながら『やっぱり来なかったな…』分かってはいたが、口約束の現実を叩きつけられたようで、気持ちは沈んでいた。
川の流れに耳を傾けながら、何となく帰るタイミングを逃していると、後ろからガサッと音がし思わず振り向いた。そこには小さい頃の圭をそのまま大きくしたような男性が立っている。
『圭!?』…でもすぐに声を掛ける事が出来なかった。彼の顔には笑顔はなく、目つきもどこか違和感がある。私は静かに立ちあがり、お互いに黙って見つめ合ってるだけ。
暫くすると、男性がおもちゃのペンダントを差し出した。
無言のまま受け取ると「圭は2年前に亡くなりました。私は、彼の遺言を守る為にここに来た兄です」
聞いた事実を受け入れる心の準備が出来なくて、視界が真っ白になったかと思うと、立っていられなくなり、その場に座り込んでしまった。ーー彼が…いない?
「うそ…嘘だよ」
零れ落ちる涙が本当だと証明しているのに、私は無駄な抵抗をするように手で顔を覆った。楽しみにしていた日、彼にもしかしたら逢えるかもしれなかった日。
……忘れてた方がまだ良かった。こんな事聞くくらいなら、心の思い出として残しておきたかった。私を傍で見ていた男性は
「このままだと風邪ひくから、車に入ろう」
初対面の人について行き、黙って助手席に座り止まらない涙をハンカチで拭いていた。
彼はそっと飲み物を渡してくれ、私も無言で受け取ったまま飲んでいた。辺りはすっかり暗くなって、川には月が形を歪ませてぼんやり映っている。
「圭との約束を覚えていてくれたんですね。私は半信半疑でここに来ましたが、見た瞬間あなただと分かりました」
男性が話している間も涙は止まらず、黙って聞いているのがやっとだ。
彼が居ないだなんて信じたくないし、認めてしまえば絶対に逢う事が出来ないと納得しなければいけない。
「今日は、これ以上話すのは止めましょう。また彼の事を聞きたくなったらいつでも連絡して下さい、私も弟の笑顔を忘れられない者の1人だから」
自宅までを指で案内し、男性は送ってくれて私はお辞儀だけすると家の中に入った。
荷物を放ったままベッドに身体を投げると、枕に顔を沈めて一晩じゅう泣き続けた。
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