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――数日後。私は何とか物を口にする事が出来るようになったが、笑顔なんてとても出来そうもない状態だ。
机の上には2つのペンダントが並んでいる。私は震える手で触り、引き出しの奥にしまった。
何日も家から出る事もなく、何もする気が起きない。それから数日経ったある日、いつものようにシャワーを済ませて服に着替えて窓を見ると、あの日の車が下に停まっている事に気付いた。
無意識に階段を降り、車の方に向かっていた。男性は私の姿を見つけると手招きをして、助手席に乗るよう促した。
「突然スミマセン。私も今のあなたのような状態だったので、気持ちは痛い程分かります。沢山ある中でコレはあなたが持つ方がいいと思ったので」
それは一冊の日記で、無言で受け取ると、しっかりと両手で抱きしめるように持った。
「何か少し食べて下さい。また様子を見に来ますので」
それだけ言うと、彼は車を走らせて去って行った。部屋に戻り、私はゆっくりとページをめくってみる。
そこには、薄っすらとした筆圧だけど彼の日常が綴ってあった。
私と出会った事。彼は病弱で友達がいなかった事…。天使にしか見えなかったのに、笑顔の裏に生きたいという願いが隠されていた事。
川で過ごした事は、特に細かく書いてあり、私の笑顔に救われる。僕も笑顔で家族を、私を喜ばせてあげたいと。
どうしても気になって、約束をして別れたページを探していた。そこには…久美とずっと一緒に居たい。自分がもっと元気だったら、傍に居られるのに…。
今までのページは前向きなな内容が多いのに、その日だけは弱い彼が見え隠れしていた。
彼女と再会するまでに、海外でしっかりと治療を受け、久美に逢いたい。絶対に逢いたい!
そして久美が、僕の花嫁さんになってもらいたいと言いに行く。その印として、近いのキスを交わしたとーー。
「圭は、私の事ずっと覚えててくれたんだね。そして本当に…逢いに来てくれようとしてた」
約束の日じゃなくてもいいから、最後に一目逢いたかった。綺麗な記憶だけ残って、私には逢うどころか遠い人になってしまった。
「圭、私だって…ずっとずぅーっと逢いたかったんだよ。病気の事隠して、一人で居なくなるなんてズルいよぉ…」
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