毛布

1/1
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

毛布

アリストテレスのため息が深く長く僕を刺した かび臭い匂いの古い本を閉じ 窓の外を見上げると 白いものがふわふわと舞っている 導かれるように窓を開け 白いものに手を差し出した 手のひらで しゅわり しゅわりと いくつもの白が溶けていく 「雪が降ったのね。早く閉めて、寒いから」 毛布が言った 中には冬でも薄着の彼女 再び手のひらに白いものを乗せてみた 今度は結晶の形を残し 少しの間そこに留まって またしゅわりと消えていった これは雪だと彼女が言う 本当に雪なのかと自分に問う 真っ白ねと彼女が言う 本当に白いのだろうか すっかり夜ねと彼女が言う 外は何故暗いのか 「ねえ、早く戻ってきてよ」 毛布のかたまりがくぐもった声を出す 頭まですっぽり毛布に潜り込んだ彼女は もはや毛布でしかない それは本当に彼女と言えるのだろうか 僕は分からなくなってしまった
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!