第1章

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 しかしそれからはずっと今のように訳が分からない事を言い続けている。 「もう一度最初から聞くぞ。なぜあの女の子を殺した」 「先ほどから言っているように僕には時間が巻き戻せる力があるんで殺しても大丈夫なんですよ」  深谷がまた顔色一つ変えずに淡々と言った。  まるで「腹が減ったから食べる」というぐあいに、さも当たり前の事を言ってます。という顔だ。  俊次はこみ上げる怒りを理性で必死に抑えた。  今まで取調べでおかしな事を言う奴は何人もいた。  そういう奴の狙いはもう分かっている。 「お前、精神鑑定にもっていきたいんだろ。責任能力がないふりをしようって魂胆なんだろ」 「違いますよ」  深谷は失笑しながらつぶやき言葉を続けた。 「僕の精神はいたって普通です。覚せい剤もやってないし。薬やる奴とか最悪じゃないですか」 「ふざけんな」  そう言い深谷の胸倉を掴んだ俊次の手を隣で立って聞いていた宮原が「やめろ」と言いながら離した。  その落ち着きといい夕方深谷を張った勘といいさすがベテランだ。  俊次は乗り出した身をもう一度椅子に落ち着かせた。 「それに責任能力はありますよ」 「どういう意味だ」 「だって時間を戻せるんですから。そうしたらあの女の子も、はい、元通り。ちゃんともとの生活が送れますよ」  本当に訳の分からない奴だ。  俊次は机の上に置いた手を強く握り締めていた。 「じゃあ具体的に言ってみろ。時間を戻すってどうやってやるんだ。まさかアニメみたいに机の引き出しにタイムマシーンを隠してるとか言うつもりじゃないだろうな」  俊次はわざと小馬鹿にした口調で深谷を兆発した。  しかし、深谷はいたって冷静に言葉を返してくる。 「そんなもの必要ありません。目をつぶり、深く念じればいいんです。目を開ければ戻りたい時間に戻れます」  
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