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「…田所さん…自分で出来るから…」 玄関までの道のりを私の鞄とコートを手に持ち、甲斐甲斐しく新妻のように後ろに付いて歩く田所さん。 私はそんな彼女にそう言うと、手にした鞄とコートを受け取るべく手を差し出した。 「いいかげん、お諦め下さい。櫻様。」 そんな私に言い諭すように、アンジェラさんが口を挟む。 「でもね…アンジェラさん。私、ただのMr.Jの御側役なんですよ?しかも期間限定の!それが、ローレンツ様に次ぐ位ってどーゆうことなんですかね…?私には理解出来なくて…」 私はアンジェラさんに、そうしみじみとこぼす。 「いいえ、そのような事はございません。御側役とは閣下のお命そのもの。それ相応の地位で当たり前でございます。それはローレンツ様にも負けず劣らぬ程…。櫻様もいいかげんそれを理解し、私共に構わず気丈にお振る舞い下さい。」 って言われてもさ…… その言葉を受け入れがたい顔で聞く私。 「なに?それじゃぁ~…“構わぬ。下がれ”とか言っちゃえば……」 “えっ!?” アンジェラさんの言葉に、ローレンツ様のものまねをして見せている時だった。 田所さんとアンジェラさんが急に深々と頭を下げだした。 「何が、構わないのだ?」 “うっ…この声は……” 私は背後に響くその声に正体を悟ると、強張った笑顔でその人に振り返った。 「おはようございます。ローレンツ様。こちらでお会いするとは存じませんで…」 私の白々しい挨拶に、訝しげな表情を返すローレンツ様。 「珍しくはあるまい。私は時間どうりにMr.Jをお迎えに上がったまでだが?」 「えっ!?」 私はローレンツ様のその一言に慌てて時計を確認すると、いつもより5分程過ぎている出発の時刻に驚き、転げるように玄関を飛び出した。
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