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“カッカッカッ…”
駅を飛び出た私は、通いなれた会社までの道のりを早足で歩いた。
途中なんとか間に合いそうなことを腕時計で確認しながら、その先を急ぐ。
「相原っ!」
そんな道中だった。
もう少しで会社に着くという所で、私の名を呼ぶ声が響き、私は足を止めた。
“?…工藤!?”
そして声がした方を見ると、少し先のフェンスに腰を掛けた工藤を発見した。
「おはよ!どうしたの?こんなところで。」
私はそんな工藤に近づくと、そう話しかける。
「“どうした”じゃねーよ…」
“!…冷たっ…”
工藤はそう口にすると、私のオデコを指でつついた。
その手が冷たくて、私は思わず顔をしかめる。
「急に異動になったかと思えば、全く連絡もつかねーじゃねーか…」
あぁ…そっか、ごめん…。
実は今、プライベートの携帯は使えないんだよね…。
工藤の問いに私はそんなことを思いつつ、それなりの言葉をかえす。
「ごめん。ちょっと異動先でバタバタしてて…」
「副社長に付いてるんだって?そんなに忙しいのかよ…」
すると今度は、顔を覗き込むようにしてそう訊ねてきた。
私はそんな工藤にこれ以上深くを問われたくなく、視線を外すと、再びなんとか取り繕う。
「うん、まぁね…。なんせ初めてだし、色々覚えることもいっぱ…」
そしてそう口にしていた時だった。
私の視線の端が見慣れた黒塗りの車を捉え、私は思わず目を見開く。
“ヤバイっ!”
そしてそう思うや否や、私は工藤に別れを告げると玄関めがけて走り出した。
「あっ!おい!相原っ!今週末…」
そんな私の背中に工藤は何やら話しかけたが、私は続きを聞く間も取れず、工藤に振手刀を切って謝ると先を急いだ。
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