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“コツッ…コツッ…コツッ”
銀杏の絨毯が続く駅から会社までの道のり。
私は肌寒くなった季節に、マフラーに首を沈め、朝の混み会う街路樹を歩いていた。
“トンッ”
「お~はよっ!」
すると、聞きなれた声と供に肩にぶつかるもうひとつの肩。
「おはよ!由香」
振り向くまでもなく分かった。同期で親友の由香だ。
「寒くなったね~」
「本当に~」
私達はそんな何気ない会話を交わし会社までの道程を共にした。
そんな私達の真横を黒塗りのリンカーンが颯爽と駆け抜けていく。
「いいわねぇ~。重役は。毎日アレで送り迎えじゃ、季節なんて関係ないでしょ~」
由香はその車を横目に、ポロリとそうもらす。
「本当に~。羨ましい限りだわ。会社から車出してもらうなんて何十年先か…」
「何十年先で、乗れれば御の字だろうよ…」
由香に返した言葉は、意外にも頭上から違う声色でそう返された。
「あら、おはよう工藤君。」
そしてこれまた振り返らずしても分かる声の主を由香の挨拶で確かめる。
「……同期100人弱の中で数十年後にあの椅子に座れる奴なんて一握り……いや、一握りでもいれば良い方か…。」
由香の挨拶に軽く手を挙げて応えながら、工藤はそう続けた。
「まぁ、俺はその一握りになってみせるけど。そしたら相原、お前の事横に乗っけてやってもいいぞ!?」
“ポンッ!ポンッ!”
そして、更にそう加えると偉そうに私の肩をポンッ!ポンッ!と叩いてきた。
「ふんっ!おあいにく様!私だって自力でいつかはあの車に乗るんだから!」
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