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「ライター貸してくれませんか? 忘れちゃって」
声をかけられて、顔を上げると。そこに立っていたのは彼だった。
ケースの中に突っ込んだライターを取り出すだけなのに、スムーズにいかない。
どうぞ、と渡す指が震えないよう、必死で力を込める。お釣りや商品を渡す時には絶対にこんなことはないのに。
「……あっ」
彼は俺の顔をじっと見て、少し考えてから、
「コンビニの人だよね? どっかで見たことある顔だなって思ってて」
「そうです」
「やっぱりそうだった。人違いじゃなくてよかったー。いつもレジ打って貰ってるから、なんか知り合いみたいに顔と名前覚えてた」
彼はニッと口を歪めて笑った。こんな表情、初めて見た。ただ買い物してるだけのやり取りじゃ見れなかった。
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