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ショーが終わり、マジシャンが舞台裏に戻る。
しばらくすると、観客も次々と退席していくが、僕はその流れに遡り、『関係者以外立ち入り禁止』の札も無視して、マジシャンを探した。
片っ端から部屋の扉を開け、ようやく見つけたマジシャンは、椅子に腰掛けてコーヒーを飲んでいた。
僕に気付くと、不思議そうな顔を一瞬するも、手招きして、僕にも椅子に座るよう促した。
「ぼうやはどうしたのかな?」
コーヒーはまだ早いとみたのか、コップに水を注いで僕に渡してくれた。
何か話そうと思っても、緊張からか、喉が渇いて上手く話せなかった僕は、それを慌てて飲む。
そして、ようやく僕は声を発することができた。
「おじさん、僕も魔法使いになりたいんです。
だから、僕をおじさんの弟子にしてください!」
突然のことに驚いたおじさんは、目を丸くするも、すぐに、ステージで見せていた笑顔になる。
「そうか。
でも、それはもう少し大きくなってからにしようね」
子供だから……。
そう言われて断られるのはいつもの事だ。
お巡りさん、電車の運転手さん、他にもたくさん……。
このおじさんもか。
ガッカリした気分でいると、おじさんが僕の肩に手を置いた。
「でもね。
魔法使いになるための魔法を教えてあげようね」
「魔法の言葉?」
なんだか、すごいものを教えてもらえる気がして、興奮してドキドキしてきた。
「そう。
『魔法を信じるな』」
えっ?
「魔法使いになりたかったら、魔法を信じちゃダメなんだ。
そうしないと、魔法は使えないんだよ」
マホウツカイハマホウヲシンジナイ?
言われた言葉が頭の中で反響する。
それでも、答えなんて出るわけない。
意味なんて理解できない。
そうこうしているうちに、僕は係員に見つかり、両親に引き渡された。
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