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「ううん、アイスがいい」
奈緒は遠慮もせずに答える。嵐が仰ぐ手を止めると、不服そうに口を尖らせた。
「アイスぅ? 後で食って帰るか」
扇ぐのを再開し、嵐が提案する。奈緒は無言で頷いた。その口元は、満足げに微笑んでいる。
嵐は、百八十センチを超える身長に、高校野球で鍛えた逞しい肉体を兼ね備えている。結構な強豪校でピッチャーを務めていた肩は、高校卒業して数年経っても厚くて逞しい。大学に入った後も、定期的に草野球を続けている賜物だろうか。
逞しい腕が送る涼しい風に目を細めて嵐を見ると、扇がされているというのに、そして自分も汗だくになっているのに、なぜか嬉しそうに笑っていた。
いかつい体つきだが、嵐が人に威圧感を与えることはまったくない。それはきっと、この人の好さそうな明るい笑顔のせいだろう。
体に似合った精悍な顔つきで、しっかりとした顎がいかにも男らしいが、笑うと目元に笑い皺が寄って、急に愛想が良くなる。ごつい見た目なのに、女の子から「可愛い」などと言われるほどだ。
奈緒もこうして笑顔の嵐に甘やかされると、思わず良い子良い子したくなるが――そうすると途端に調子に乗る男なので、絶対にしない。
奈緒は感謝の代わりに、愚痴を零すことにした。
「あ~あ、もうマジでキツイ。就活は終わる目途も立たないし、かといって就活やめるわけにもいかないし。就活忙しくてバイトにあんまり入れないから金も無い……」
「奈緒も金欠? これから夏休みだってのに、金無いの辛いよな~」
嵐は本当に苦しそうに言うが、それを聞く奈緒の視線は冷たい。
「俺の金欠と、お前の金欠は理由が違うだろ」
嵐に扇がせたまま、恨めしそうに呟く。すると嵐は、絵に描いたようなテヘペロ顔をして見せた。
「いや~、この前デリヘルですっげぇ可愛い子に会っちゃってさ。三日連続で呼んだった」
奈緒が就活で金に困っているというのに、嵐が金欠に喘ぐ理由は、大好きな風俗遊びのため、というどうしようもないものだった。
三度の飯よりHが好き! が嵐の口癖で、学生の身分で週一は風俗に通い、パソコンのメモリーはエロで容量オーバー。嵐の性欲は尋常ではない。
(ほぼケモノ)
大学入学以来の親友を、奈緒はこれでもかと冷たい目で見てやる。
「お前の内定先に、お前のパソコンの中身をぶちまけてやりたい」
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