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二人の本心は同じだったことがわかったが、それはそれで気恥ずかしくて、奈緒はまた言葉に詰まった。
嵐が視線を上げ、困っている奈緒を見ると悲しそうに目を伏せた。
「……ごめん、余計に引くよな。奈緒を困らせたいんじゃないんだ。俺……前みたいに戻りたくて」
「前……て?」
友達に戻る、ということだろう。そうなれることを望んできたはずなのに、奈緒は顔色を悪くした。
嵐はそれに気づかず、キッと顔を上げた。
「……もう二度と、気持ち悪いことは言わないし……さっきみたいな変なことはしない。だから最後に、言わせてくれ!」
最後だから。と念押しして、嵐は告白した。
「奈緒が好きだ。奈緒が可愛いって思うのは……奈緒が好きだったからなんだ!」
嵐は顔を真っ赤にして、その目は怖いほど真剣だった。
奈緒はびっくりして――嬉しくて、言葉を失くした。
「て、気づいたのは最近だけど……だから奈緒と万里さんがキスしてるの、頭にきてどうしようもなかった。それであんな風にお前に八つ当たりして……あれも悪かったと思ってる! もう二度と、偉そうなこと言ったりしない! 奈緒が誰を好きでも……俺はなにも言わない! だから……」
一気にまくし立てた後、嵐はギュッと目をつむって奈緒に顔を突きつけた。
(……キス?)
モカのように、最後にキスをねだられたのかと思った。むしろ、最後になどしたくないのだが――。
奈緒がまたトロトロしていると、嵐が言った。
「気が済むだけぶん殴って、それで許してほしい!」
「……へええっ?!」
「そんで……また、俺と友達に戻ってください!」
奈緒は、嵐の昔話を思い出した。嵐が高校時代に所属していた野球部は、結構な強豪校で大変厳しかったという話を。
体育会系に縁のなかった奈緒は、ひたすらオロオロした。奈緒は人を本気で殴ったことなどないし、そもそも、奈緒には嵐を殴る理由がない。
奈緒だって、嵐が好きなのだから――。
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