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気づくと奈緒は、嵐の頬を両手で包み、その右頬にキスしていた。
奈緒に殴られる、もしくは引っ叩かれることを覚悟していた嵐は――目を見開いた。
「一人で……勝手にベラベラ喋んな」
奈緒は、照れ隠しで文句を言った。それから、照れ隠しついでに左頬にもキスをした。
言いたいことは、山ほどあった。どんなに嵐が好きか、嵐に言ってやりたかった。
出会った当初からの変わらぬ優しさや、いつだって自分に甘いところ。男らしく逞しい体つきや、精悍な顔立ち。嵐の大好きなところは、自覚してしまうと、挙げたらキリがなかった。
しかし見た目に似合わず不器用な奈緒は、その一つも伝えることができず、好き、とさえ上手く言えず――。
今度はそっと唇にキスした。
「……奈緒?」
触れるだけのキスの後、最初に声を上げたのは、やはり嵐だった。
けれど、今だけは絶対に伝えなければならないことがある。
奈緒は、早鐘を打って苦しい心臓を鎮めようと深呼吸し、緊張で乾く唇を軽く舐めた。
「俺もね……嵐のことが、好きだった……みたい……」
腹を括ったつもりだったのに、どうしても嵐のように男らしくは決められなかった。
嵐が飛び出さんばかりに目を見開き、声に出さず、マジ? と訊いた。
奈緒は、耳から首まで真っ赤になって、小さく頷いた。と同時に、嵐に抱きつかれた。
「うわっ! ちょっ!」
「バッカヤロー! 早く言えよ~!」
ギュウギュウと抱きしめられ、とても言い返せない。奈緒がグウッと呻くと、嵐が、わりぃ! と慌てて抱きしめる手を緩めた。
離してはくれないのだが――。
「ちょっと待て。だったらなんで、キスした時、殴ったんだよ?」
「こ、拘るな~。あん時はまだ、好きって思ってなかったし……ビックリして……」
「万里さんとキスしてたのは?!」
「うっ……」
さっきまでしおらしかったのに、嵐は急速に息を吹き返した。しかも、なぜか奈緒が責められている――。
「あれは……万里さんがゲイって聞いて……それで相談したくて……」
「相談~?」
「だ、だってまだ嵐が好きって思いつかなくて……でも俺も、3Pの時、嵐ばっか見てたから……俺もゲイなの? てわかんなくて、それで万里さんにそう訴えたら……」
「相談に乗ってあげる。俺で試してみない? 的な流れでキスされたんだな?」
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