Chapter12

2/8

437人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
 二人が結ばれ、季節は二つ巡り、また二人が出会った季節がやって来た。  春――。奈緒と嵐はめでたく大学を卒業し、その卒業式の帰り道だった。 「ったく、謝恩会だってサークルの飲み会だってあんのにさ、卒業式から働かせるんじゃねぇよ! これはアレだ。いわゆるブラック企業ってやつだ!」  嵐は、成人式で一回着ただけのスーツに身を包み、奈緒も就職に合わせて買った新品のスーツ姿だった。  そのネクタイを緩めながら、嵐が奈緒に怒った顔を向ける。 (嵐は体格が良いから、スーツが似合うな)  などと見惚れていた奈緒は、慌てて真面目そうにする。 「でもまぁ、やっと就職できた会社だから……俺は文句言えないかな」 「それだよ! こっちの弱みにつけ込みやがって、あのブラック社長!」  奈緒は長い就職活動の末、なんと株式会社ジーニーに正社員として就職が決まった。のだ  夏が過ぎ、秋になっても奈緒に内定が出ることはなく、そこに万里から声が掛かった。  ジーニーの初めての作品、モカの移籍第一弾DVDがスマッシュヒットし、親会社から与えられた売上ノルマを無事クリアした。  新会社のジーニーの経営は早々に軌道に乗り、事務方の社員を増員することになって奈緒に白羽の矢が立ったのだ。  最初に誘われた時は、鈍い奈緒も怪しんで断った。  しかし、具体的に事務方の業務の詳細を説明されるうち、受けてもいいかと思うようになった。なにより、他の企業から内定を貰える気配が一向になかった。  奈緒は相変わらず、内定も金も無く、愛しかない状態だったのだ。 「でも……嵐まで来なくてもよかったのに……」 「ば~か! お前を一人で万里さんのところに行かせられるかよ! もう何度も話しただろ?!」  奈緒が一番驚いた展開は、中堅ゼネコンの営業職に内定の出ていた嵐が、それを蹴ってまで奈緒と一緒にジーニーに入社することを決めたことだ。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

437人が本棚に入れています
本棚に追加