Chapter12

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 奈緒が万里の誘いを受けると話すと、嵐はすぐに内定先の企業に断りの電話を入れた。  それから万里に電話し、奈緒を入社させるなら自分も入れろと迫ったのだ。  嵐の行動力と、大きな愛情――といってよいのか――に、感激するより、困惑した。しかし奈緒が嵐に勝てたことは、いまだにない。  そうして奈緒と嵐は、株式会社ジーニーの社員になったのだった。 「もうこれからは、あんまり万里さんの悪口言わない方がいいんじゃない? 一応上司……どころか社長だし」 「いいや! 俺は悪いところは悪いと言える、ハートの強い新入社員になってやるぞ! 悪徳セクハラ社長になんか負けてたまるか!」  奈緒は、いつまで経っても万里への怒りが消えない嵐に呆れつつ、それが自分への気持ちゆえだと思うと、顔がニヤけてしまうのを抑えられなかった。  二人は今日も、ラブラブである。  卒業式を終えて間もない奈緒たちが向かうのは、二人の思い出の場所――なのか?――住宅街にある、あのスタジオビルだ。  ジーニーの経営は順調なはずだが、なぜかまだ親会社所有のスタジオビルを間借りしている。仮の事務所のはずが、今ではジーニーの名刺に、あのビルが住所として記載されていた。 (本当に……大丈夫かな、あの会社)  就職を決めても、奈緒のジーニーに――というより万里に――対する懸念は、完全には払拭されない。 「それにしても……なんか嫌な予感がすんだよなぁ」  奈緒の内心を読み取ったように、嵐が呟く。 「事務方の採用だから、もう二度と男優することはないって万里さんは言ってたけどさ、あんなちっちゃな会社だぜ? 人が足んなくて、とか言ってまた出演させられそうで、こえぇよ。この前のビデオは、モカちゃんのお陰でお蔵入りになったけどさ」  二人が付き合うきっかけになった、モカとの3Pシーンは結局、DVDに収録されることはなかった。 『ある意味、二人の初Hみたいなもんだもんね。売り物にしちゃかわいそうかなって』  モカ――改め瞳と奈緒は、今ではプライベートで遊ぶほど仲が良い。  瞳は友人の奈緒を気遣って、女優権限で二人の出演シーンをカットしてくれたのだ。
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