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プライベートの瞳は、優しくて気の利く可愛い女の子だ。
しかし――。
「モカちゃんってさ、仕事中は怖いけど、実はいい子だよなぁ」
隣の嵐が、瞳――モカを褒めるのは、ちょっとだけ面白くない。
奈緒は意地悪な気分になった。
「……だよねぇ。相手がモカちゃんだったら、嵐も男優やるの、まんざらじゃないもんね」
「……へ?」
「この前、見つけちゃった。モカちゃんの新作、クローゼットのスニーカーの空き箱に隠してあるの」
「ゲッ! いつの間に?! ……じゃなくて、あの新作は、この前ジーニーで電話番のバイトした時、加藤さんに貰って……奈緒~!」
早足になった奈緒を、嵐が大慌てで追いかける。
「そ、そりゃあさ、今でもモカちゃんの大ファンだけど……それはあくまでファン、だからさぁ。浮気とかとは違うじゃん?」
苦しい弁解を繰り出す嵐を、奈緒は拗ねた顔で見つめた。
「奈緒~、俺はお前だけだってぇ!」
嵐の言葉に、嘘はないと信じている。だが、奈緒には不安があった。
奈緒は男しか好きになれない。それは今ではもう、はっきりわかる。
それに対し嵐は、今でも女の子が大好きだ。奈緒の目を盗んで、Hな動画を今もたくさんパソコンに保存しているし、モカの新作が出れば見ずにはいられない。
嵐が浮気などするような男ではないと信じているが――女々しく不安になる自分は、嫌いになりそうだった。
奈緒は恨めしげに嵐を見つめた。
すると嵐は、後ろ頭をガシガシとかいて、恥ずかしそうに話し出した。
「俺が、モカちゃんのファンになったのはさ」
「……ん?」
「モカちゃんって、出始めの頃は今よりずっと化粧が薄かったんだよ。ギャル系で売ってなかったから」
今では、プライベートでは嵐より奈緒の方が、モカ――瞳と仲が良い。しかしだからこそ、瞳から仕事の話はあまり聞かないので、奈緒には知らない話だった。
「だからさ……マジで奈緒と似てたんだよ」
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