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もう何年も前だけどな。と、嵐は珍しく赤い顔でつけ足した。
奈緒も、つられて赤くなる。
瞳――モカと似ていると、本人含め、何人かに言われたことがある。
最初はピンと来なかったが、プライベートで瞳に会うとメイクが薄いため、自分でも似ているかもしれない、と思うようになった。
そのせいもあって、奈緒は瞳を姉か妹のように感じて、余計に親近感が増したのだ。
しかし嵐が、何年も前からそんな風に思っていて、それがきっかけでモカのファンになったというのは、照れ臭くも嬉しかった。
「な~お」
嵐が似合わない可愛い声で甘える。
奈緒はやっぱり――嵐に敵わない。
しばらく無言で歩いていると、やがて打ち放しコンクリートのビルに着く。
玄関扉の前で、奈緒は嵐に振り向いた。
「わかった。でも……ああいうDVDは、もうちょっと上手く隠してよね」
奈緒が薄い唇を尖らせて言うと、嵐は馬鹿みたいに嬉しそうに頷いた。
そんな嵐が可愛くて、上目遣いで見てみる。
嵐の目尻がだらしなく下がり、奈緒の細腰を抱き寄せた。
うまい具合にここは死角だ。どちらともなく顔が近づく。
二人の唇が重なろうとした時――。
「だから~! イヤなもんはイヤだって言ってんでしょ?!」
分厚い扉の向こうから、この世のものとは思えぬ恐ろしい叫び声がした。
奈緒と嵐は顔を見合わせ、顔をしかめた。
ソーッと扉を開け、足音を忍ばせて中に入る。三和土には大量の靴がある。それらを踏まないように玄関に上がると、突き当りの寝室から怒鳴り声が聞こえた。
短い廊下を進み、寝室の扉をわずかに開けて中を覗くと、女王様――が万里に怒鳴り散らしているところだった。
「あの男、生意気で嫌いだって言ったでしょう?! なんであのクソ野郎が相手なのよ!」
せっかくの美人を鬼の面のようにしているのは、ボンテージ姿の瞳――ここではナンバーワンAV女優の青山モカだった。
女王様の怒りに触れたくない奈緒たちは、なるだけ静かに寝室に潜り込んだ。
といっても今日はカーテンが黒に変えられて室内は薄暗く、洒落たキングサイズのベッドは安物の粗野なパイプベッドに変わって、寝室という雰囲気ではなくなっていた。
元から打ちっぱなしの壁なので、暗くして家具を変えると、ガレージか倉庫のような雰囲気だった。
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