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「嵐くん、君のバイト代、誰のお陰で貰えたかわかってるよね? 夏のボーナスが出るかどうかも、あたしに掛かってること、忘れないでよ?」
ニッコリと、しかし底冷えのするような女王様の笑顔に、嵐は竦み上がった。
そしてガックリと肩を落とし、女王様とその家来の元に馳せ参じた。奈緒も仕方なく嵐に続く。
「なんすかぁ? 俺ら、事務方の採用ですよねぇ?」
「ねぇねぇ、万里くん。あたし、二人とだったらオッケーなんだけど!」
嵐の訴えはさっさと却下され、二人が恐れていた展開が動き出す。
「ひ、瞳ちゃん! それは無理だって!」
驚いて思わず本名を呼んでしまうと、モカにギロリと睨まれた。
奈緒はヒィッと叫んで、ブルッと震えた。
「モカちゃん~、勘弁してよぉ。ね?」
この通り、と嵐が両手を顔の前で合わせた。奈緒を自分の背に隠して。
恋人をかばう嵐に、モカが舌打ちをする。
女王様の機嫌が直らないと、従僕も元々の性格の悪さを隠さなくなる。
ヤリ手社長――万里が、悪い顔して奈緒たちを見る。
「でもなぁ、うちの看板女優様がこう仰ってるしなぁ」
「万里さん!」
奈緒と嵐が同時に叫ぶ。
モカが目を輝かせて万里を振り返った。
「社長~、二人とだったらあたし、ハードなプレイも頑張るんだけどなぁ……」
「モカちゃ~ん、やっとヤル気出してくれた?」
悪いことをする時ばかり、モカと万里は息ピッタリになる。
奈緒の背に、冷たい汗が伝う。
(やっぱりここは、ブラック企業だ……)
「……でもま、奈緒くんのことは、あたしもよ~く知ってるし……」
モカが美しくも恐ろしい笑顔を浮かべ――奈緒はゾッとした。
「万里くん、こういうのは? あたしと嵐くん、二人がかりで奈緒くんをいじめちゃうの。ちょうどあたし、ボンテージだし」
「ええええええええ?!」
奈緒の目が、極限まで見開かれた。
嵐はよほどショックだったのか――絶句した。
万里が手を叩いて喜ぶ。
「モカちゃん……それいいよ! モカちゃんの新境地を開けるかも!」
「でっしょ~? 実はあたし、奈緒くんの泣き顔が忘れらんないんだよねぇ。可愛くってキュンキュンして……もっといじめたくなっちゃったの。キャッ、あたしって真性のSだったみたい!」
「やだなぁ、モカちゃんは超がつくドSだって!」
性格の悪い親友同士が、笑ってハイタッチした。
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