Chapter12

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「嵐くん、君のバイト代、誰のお陰で貰えたかわかってるよね? 夏のボーナスが出るかどうかも、あたしに掛かってること、忘れないでよ?」  ニッコリと、しかし底冷えのするような女王様の笑顔に、嵐は竦み上がった。  そしてガックリと肩を落とし、女王様とその家来の元に馳せ参じた。奈緒も仕方なく嵐に続く。 「なんすかぁ? 俺ら、事務方の採用ですよねぇ?」 「ねぇねぇ、万里くん。あたし、二人とだったらオッケーなんだけど!」  嵐の訴えはさっさと却下され、二人が恐れていた展開が動き出す。 「ひ、瞳ちゃん! それは無理だって!」  驚いて思わず本名を呼んでしまうと、モカにギロリと睨まれた。  奈緒はヒィッと叫んで、ブルッと震えた。 「モカちゃん~、勘弁してよぉ。ね?」  この通り、と嵐が両手を顔の前で合わせた。奈緒を自分の背に隠して。  恋人をかばう嵐に、モカが舌打ちをする。  女王様の機嫌が直らないと、従僕も元々の性格の悪さを隠さなくなる。  ヤリ手社長――万里が、悪い顔して奈緒たちを見る。 「でもなぁ、うちの看板女優様がこう仰ってるしなぁ」 「万里さん!」  奈緒と嵐が同時に叫ぶ。  モカが目を輝かせて万里を振り返った。 「社長~、二人とだったらあたし、ハードなプレイも頑張るんだけどなぁ……」 「モカちゃ~ん、やっとヤル気出してくれた?」  悪いことをする時ばかり、モカと万里は息ピッタリになる。  奈緒の背に、冷たい汗が伝う。 (やっぱりここは、ブラック企業だ……) 「……でもま、奈緒くんのことは、あたしもよ~く知ってるし……」  モカが美しくも恐ろしい笑顔を浮かべ――奈緒はゾッとした。 「万里くん、こういうのは? あたしと嵐くん、二人がかりで奈緒くんをいじめちゃうの。ちょうどあたし、ボンテージだし」 「ええええええええ?!」  奈緒の目が、極限まで見開かれた。  嵐はよほどショックだったのか――絶句した。  万里が手を叩いて喜ぶ。 「モカちゃん……それいいよ! モカちゃんの新境地を開けるかも!」 「でっしょ~? 実はあたし、奈緒くんの泣き顔が忘れらんないんだよねぇ。可愛くってキュンキュンして……もっといじめたくなっちゃったの。キャッ、あたしって真性のSだったみたい!」 「やだなぁ、モカちゃんは超がつくドSだって!」  性格の悪い親友同士が、笑ってハイタッチした。
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