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奈緒はそれを、呆然と眺めるしかできなかった。
己の身に、とんでもない危機が迫っているというのに――。
「ペニバンとかつけちゃって、あたしと嵐くんに、奈緒くんが前から後ろから、メチャクチャにヤられちゃうの!」
「モカちゃん……それ、最高だよ! テンション上がってくるね!」
「だだだだだ、ダメ~!」
たまらず奈緒が叫んだ。
憎たらしいぐらいキョトンと、モカと万里が奈緒を見てくる。なにか問題でも? とでも言いたげに。
奈緒は味方であるはずなのに、いつまでも無言の恋人を振り返った。
「嵐もイヤだって言ってよ! なんで俺が、モカちゃんにヤられちゃうんだよ?! ……嵐?」
嵐は滅多に見せない、難しい顔でなにやら考え込んでいた。
奈緒は恐ろしい予感で真っ青になった。
「あ、嵐……?」
「アリだな」
「……へ?」
奈緒の最悪の予感が的中する。
嵐が神妙な顔を上げた。
「奈緒が他の男にヤられたり、モカちゃんを抱くのは耐えられんけど、モカちゃんにヤられちゃうのは……アリだ」
きゃあっ、とモカが黄色い声を上げた。
奈緒の意識が遠のく。
「しかも俺とモカちゃん、二人で奈緒を……」
嵐がデレっと鼻の下を伸ばす。
奈緒の中で、堪忍袋の緒がブチッと切れた。
「イヤだ~~~っ!!!」
だがしかし、奈緒の叫びなど、誰も聞いてもいなかった。
万里が、金勘定をしながらほくそ笑む。
「よし! それ採用! さしずめタイトルは……『美女と野獣と』?」
おおっ! と、スタッフ一同、謎の一体感に包まれた。
奈緒を完全無視し、セクハラ社長とドS女王様、そして変態野獣の恋人がヤンヤヤンヤと盛り上がる。
奈緒はブルブルと震え、ありったけの声で叫んだ。
「こんな会社、今すぐ辞めてやるぅう~~~!!!」
奈緒の絶叫が、閑静な住宅街に虚しく響く。
これが、後に伝説と謳われる幻のアダルトDVD『美女と野獣と』の誕生秘話であった。
――とか、なかったとか?
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