ホタル

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 真理と康太が出会ったのは、真理が夏休みに祖父母が住む島に泊まった時の事で、康太の家が祖父母の家の近所だったのと、康太と真理が同い年だったため、二人はすぐに親しくなった。 「海が綺麗ね」  康太は、真理を小高い丘の上に連れて行く。潮風が心地よく吹き抜けるその場所は、静かで綺麗な海が見渡せ、緑豊かな山々に囲まれた村落が一望できた。  日の当たる南向きの斜面には、蜜柑の木が栽培されている。 「あそこで蜜柑を作ってる爺さんの長~い話を聞いてやると、持ち切れないほど蜜柑をくれるんだよね」  康太が、蜜柑畑を指差しながら教えてくれた。 「そうなんだ」 「ただ、話がとても長いから、時給に直すと蜜柑じゃ割に合わないかもね」  おどけて話す康太に、真理は笑顔を見せた。  坊主頭で日に焼けている康太は、その笑顔を見て気を良くし、さらに話を続けた。 「ほら、いま漁港に入ろうとしている白い船が見えるだろ?」  康太の指差す方を見て、真理は頷いた。 「うん、見えるよ」 「あれは親父の魚船なんだ」 「康太君のお父さんは漁師さんなんだ?」 「ああ、将来は親父みたいな漁師になると決めている」   未来を見据えるかのようなしっかりとした眼差しの康太を見て、真理は溜め息をついた。 「いいな、康太君は…。将来やりたいことが決まっていて…。わたしなんか、何をしたいのかさえ分からない…」  康太は、真理を励ますように言った。 「例え今は迷っていても、求め続けてさえいれば、何かが見つかるよ。まだ準備段階なんだぜ。今はさ」  真理は、康太の言葉が嬉しかった。 「そうだよね」  気を取り直した真理に、康太は話しかける。 「ところでさ、凄く綺麗なものを真理に見せたいんだけど、今夜でられる?」 「夜じゃないと駄目なの?」 「ああ、ぜったいに昼間は無理。でも、無理にでも見ないと後悔するぜ」  康太があまりに熱心に誘うので、真理はついて行く気になった。 「じぁ、いいよ」 「なら、今夜九時に家の前に迎えに行く」 「わかった」  真理は、今夜の冒険がどんなものになるか待ち遠しかった。
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