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「サンタクロースのコスプレしてたら客が来るなんて、良い時代よね。そのうち和服屋もサンタの衣装を着だすわよ」
「和服のサンタってなんかいいね」
「ただの和服着たオッサンじゃない」
ちがうよ、サンタのコスチュームをした東洋人……、そこら中にいたので特別良いとも思えなくなってきた。
と、摩訶不思議で非現実的でありながらも、常識な一画面としてそこに頓挫している店内の景色を、おかしくもおそろしくも思いながら歩いていた。
その道中である。
僕がはたと足を止めた理由は、つららの髪の毛にゴミがついていたとか、あの有名人が老けたらあんなみてくれになると思える老人を見かけたとか、えらい挑発的な服のサンタがいたとか、見えている情報からの原動ではない。
もっと、根源的で、見えない矢に射抜かれたような、心臓が一瞬だけ止まってしまったかのような違和感からだ。
50メートル奥手のベンチに座っている女性からだ。僕に向かって鋭利なほどに視線を投げかけていた。
好意的な目とも、殺気を含んだ眼とも、好奇を見る眼差しとも、どんな表情とも読めるから、逆に無表情、といえるような、霊妙な印象だ。
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