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そこにあるのは人面だけども、人間のものではない。精巧な仮面をかぶっているようであった。
彼女も僕の返す焦点を察したのか、すぐに目線を逸らした。
そして席を立つと人ごみの中に姿を隠し、僕の認識できる範囲からは颯爽と消えてしまった。
遠目だったので行きかう人々に紛れてしまい、あまり服装や出で立ちについては記憶に残らなかった。
それだけに、唯一かぶっているとわかった紺色のニットキャスケット帽だけが、よけいに瞳孔に焼き付いた。
心臓から矢が抜かれた。感触がした。止血もした。気でいた。
無人になったベンチをぽつりと眺めながら、なんだったんだろう、と首をかしげ、「た。」に続く前に、側頭部に軽い衝撃が走った。つららだ。小突かれたようだ。
「なにしてんのさ」
「あ、ごめんごめん」
「豆鉄砲を0距離でたたきこまれたハトみたいなツラしてたわよ」
「すごい顔だ」
「あなたのことよ」
昔から学校の先生には、わからない問題は飛ばすように、と教えられてきた。
それに倣い、わからないあの女性については飛ばすとして、おとなしくつららの後を追うことにする。
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