門一1

3/3
前へ
/35ページ
次へ
 そこにあるのは人面だけども、人間のものではない。精巧な仮面をかぶっているようであった。  彼女も僕の返す焦点を察したのか、すぐに目線を逸らした。  そして席を立つと人ごみの中に姿を隠し、僕の認識できる範囲からは颯爽と消えてしまった。  遠目だったので行きかう人々に紛れてしまい、あまり服装や出で立ちについては記憶に残らなかった。  それだけに、唯一かぶっているとわかった紺色のニットキャスケット帽だけが、よけいに瞳孔に焼き付いた。  心臓から矢が抜かれた。感触がした。止血もした。気でいた。  無人になったベンチをぽつりと眺めながら、なんだったんだろう、と首をかしげ、「た。」に続く前に、側頭部に軽い衝撃が走った。つららだ。小突かれたようだ。 「なにしてんのさ」 「あ、ごめんごめん」 「豆鉄砲を0距離でたたきこまれたハトみたいなツラしてたわよ」 「すごい顔だ」 「あなたのことよ」  昔から学校の先生には、わからない問題は飛ばすように、と教えられてきた。  それに倣い、わからないあの女性については飛ばすとして、おとなしくつららの後を追うことにする。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加