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崩れ落ちたトンネルを間にして、僕とサキは立っていた。
「じゃあ、おとなになったら、けっこんしようね?」
サキはふたつに結んだ髪を揺らして、僕に約束をもちかける。
「うん、やくそくだよ」
僕は泥だらけの手をズボンに擦り付けて綺麗にして、右手を出した。
約束の指切りげんまん。
「ゆーびきーりげーんまん。サキとリョウくんはおとなになったらけっこんしーますっ!」
サキの手は僕と同じくらい泥だらけだったけど、気にならなかった。僕らはふたりで歌い、手を洗って、手をつないで部屋に帰った。
その二日後に、隣の部屋は引っ越していった。
サキは、いなくなった。
僕は、残された。
アパートの隣の部屋は、そのあと若い夫婦が引っ越してきたけど、挨拶をするくらいしか関わりはなかった。
僕はサキとの思い出を心の中で引きずりながら学生時代を過ごした。
サキの家の名字ではなくなった隣の部屋の表札を見てはため息を漏らし、サキの名前を僕の名字で囁いてみたりした。
いっそ忘れようかとも思い、高校の頃には彼女を作ろうとした。でも、あの約束がちらついて、付き合う事すら出来なかった。
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