帰れないのよ

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 いつの間にやら口に詰め込んでいた中身を片づけ終えた暁実が、そこでようやく会話に参加する。  本人としては何気ない問いのつもりだったようだけれど、その言葉にフレデリックの肩はピクリと揺れた。  マリアベルは素知らぬ顔で食事を再開している。口を開けばまた余計なことを言うだろうとでも判断したのだろうか。 「いやまぁ、王宮勤めってのはなにかと気苦労が多くてな。なんつーか、強くなりゃなるほど、地位だのなんだのってのに縛られて息苦しくなっちまってよ。俺はただ、国のために自分の力を使えりゃそれで良かったんだが、副団長とかって立場にもなるとそうもいかねぇ。俺には向いてなかったんだな」  肩をすくめて言うフレデリックの言葉に嘘はないようだった。  けれど何処となく、すべてを語ったわけではないのだろうという印象もあった。  千歳はローストビーフを噛みしめながらそんな分析をする。肉は柔らかく食べやすい。味もよく染み込んでいて悪くない。自画自賛になるが、上手く出来たもんだと思う。  きっと他の面々も同じように美味しいと思っているんだろう。あれだけお喋りをしながらも、皿の上は着実に綺麗になっていっていた。 「そうか、大人ってのも大変なんだな」  大人びた風貌の暁実からそんな言葉が出てくるのが可笑しくて、千歳はほんの少しだけ口角を上げた。よほど親しくもなければ笑っているとは分からないような、本当に小さな表情だった。  隣の暁実は、目を細めてそれを見ている。  つつがなく、夕食は終わりを迎えようとしていた。
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