PK事件

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エルティさんは、腕時計タイプのメニューコマンドを目の前に立ち上げ、ボイスチャットを開く。 「おはよう。今ちょっと来れるかな? 昨日話した白君を紹介したいから。うん。癒しの広場の噴水の前で」 今彼女が使った腕時計には、メールにボイスチャット、ギルドメニューやステータスの調整と、プレイヤーに必要なコマンドが全て集約されている。 そして、今俺達がいる癒しの広場はプレイヤー達の拠点だ。 武器屋から飲食店。それに、メインタワーの各階層へと転送をしてくれる転送管理人まで、何でも一通り揃っている。 俺は噴水のある場所まで、エルティさんと肩を並べて歩く。 「おっはようございまーす」 ほどなくして、エルティさんのボイスチャットの相手らしき女の子が、俺達の前に現れた。 「急に呼び出してごめんね。もしかしてシステムバトル中だった?」                          「大丈夫でーす。途中で退出してきました。にひひ」 目の前の少しあどけなさを残すショートボブの少女は、そう言って白い歯を見せる。 黒のトップスに、生地の薄い白のスカート。 彼女の腕には、アポフィライトのバッジが装着されていた。 なるほど。エルティさんは、俺にギルドメンバーを紹介してくれるということだ。 それにしても、システムバトル途中退出って……   晒されるぞ? 噂の某巨大掲示板で。 システムバトルというのは、効率のいいレベル上げの方法だ。 まず、希望者六人でパーティーを組み、専用のルームに移動する。   そして五分間、次から次へと湧いて出てくるモブを六人で協力して倒す。 倒した数に比例して、得られる経験値が増えるという仕組みだ。 協力プレイのため、システムバトルの途中退出はモラル違反なのだ。 「そ、そっか……まあ、それはさておくとして、彼が昨日話した白君。そしてこちらが、猫神猫(ねこがみねこ)ちゃん。なんと女子高生」 うちのギルドマスターは、モラル違反に関しては割りと寛容のようだった。 「猫神猫でーす。以降、お見知りおきを」 猫神猫は、なんともキャラをつかみづらい表現でペコリと頭を下げる。 「ああ、白と言います。よろしく」 俺は彼女に右手を差し出した。 「…………」 しかし、猫神猫は俺の手を握り返さなかった。 「あの……」
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