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「ねえ。道程チェリーさん」
俺は場所を同じくして、ふらりと姿を見せたこの男と隣り合わせていた。
猫神猫との出会いは、彼女のキャラに圧倒されてしまった。
舌を出してよろしくと言われた俺は、そのあとの言葉を継ぐことができなかったのだ。
そのあと、彼女はエルティさんとどこかへ消えてしまった。
「それ、何とかならないかな?」
道程チェリーさんは、苦虫を噛み潰したような顔で俺を見る。
「それって?」
「名前だよ。チェリーでいいよ。僕と君との仲じゃないか。僕らは親友だろ? はっはっは。それにさ、道程チェリーって呼ばれると馬鹿にされているみたいだしね」
チェリーさんは何がそんなに楽しいのか、これ以上の喜びはない、そんな笑顔を俺に向ける。
ていうか、あんたが自分でつけた名前でしょうが……
「それじゃあチェリーさん。いくつか質問してもいいですか?」
「僕が今までに、君の願いを一度だって断ったことがあったかい?」
確かに願いを断わられたことは一度もないのだけれど、彼に何かを頼むのは、これが始めてだったことは口にしない。
「エルティさんが言っていた《このギルドには何もない》あれってどういう意味なんですか?」
何もあの時、彼女にただ見とれていたせいで理解できなかったというわけではなく、純粋に言葉の意味を図りかねていた。
チェリーさんは思案顔を浮かべる。
「何だろうね? 僕にはわからないよ。確かに僕はエルちゃんのスリーサイズを始めに、彼女のことは大概知っている。古い付き合いだからね。でも、わからない。そもそも人の言葉の意味なんてのは、受け取り手の感じかた一つで、例えば『ごめんなさい』という言葉一つを取っても、立場や状況が変われば、それはいくつもの意味に化ける。結局本当の意味なんて、言った本人にしかわからないということなんじゃないのかな? いや、言った本人ですら、本当のことなんてわかっているのかな? こんなときこそ、心を読めたら便利なんだけれどもね。はっはっは」
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