244人が本棚に入れています
本棚に追加
感慨深い思いで、このギルドハウスの中を見渡す。
隣にいるギルドマスターも、俺と同じことを考えているのか。
ようやくの思いで、この建物を手にすることができた喜びを、しかし口にすることはなかった。
「いろいろ、ありましたね……」
俺は彼女に、あるいは自分に向けて呟く。
本当に、俺達にはいろいろありすぎた。
「そうだね。あたしの仕事はこれでおしまい。ねえ、白(しろ)君。その、少し目を瞑ってくれない?」
「え?」
ギルドハウス建設祝いのサプライズか何かだろうか?
だとしたら、それは俺の役目ではなかったのか。
俺は自分の気の効かなさに失望する。
「早く閉じてよ」
少しはにかむ彼女。
待てよ。
なるほどなるほど。
実際に経験はないけれど、ラノベや萌えアニメを崇拝している俺の頭の中に、彼女の表情と指示された内容の二つの点を結ぶ、一本の線が浮かび上がった。
来たんだな。
俺の春が。
キスか? 接吻というやつなんだな?
俺がギルドハウス建設に尽力したご褒美的な!
お姉さんからの的な!
「ん――!?」
「ん……ぅん……」
しかし、それ以上の思考の時間は許されなかった。
彼女の唇が俺のそれを塞ぐと同時に、それは俺の思考にさえも覆い被さってきた。
「ちょっと……」
目を明けた俺の前には、信じられない光景が映し出されていた。
誰もが憧憬を抱き、そして見るものを怯ませてしまう厳ついライカアーマーを、彼女は静かに脱いでいく。
「白君、あの……あまりこっち見ないでくれる? 恥ずかしいから」
いや、マスター。あなたは一体何をしているんですか?
そんな言葉はもう出なかった。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
背中に冷たい物が、ひとすじ流れるのを感じた。
「あ、あの……マスター」
「んん?」
今言えばまだ引き返せる。
ログインするのが楽しみで仕方がなかった、あの輝かしい日々は戻らなくとも、俺達の前から去っていった仲間は帰ってこなくとも。
少なくとも、きっとまだやり直すことはできる。
だがしかし、冷静な考えをよそに、彼女の裸体を目の当たりにした俺のグローリーセイバーは、これ以上ないというぐらい硬くそそりたっていた。
最初のコメントを投稿しよう!