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「道程チェリー、推して参る!」
結論から言おう。
瞬殺だった。
チェリーさんの目算はあまりに甘かった。
あんたその『なり』で侍だったんですかいっ!
少し感動の場面だと思ったので、彼が刀を出した際に自重していた俺のお家芸を、だから今披露しておく。
チェリーさんはまだキルこそされていないものの、一撃でキル寸前まで体力を削られ、自慢の大太刀も圧倒的な戦力差の前では、何の役にも立たなかった。
「なんだよ、もう終わりか?」
拍子抜けしたようにチェリーさんを見下ろすリーダー格の男。
「ててて……タイムアウトってわけには、もちろんいかないんだよね?」
チェリーさんは喉元に斧を突き立てられながら、まだそんなことを言う。
ん?
刹那――
俺の頭に一閃が走る。
男とチェリーさんの一連のやり取りから、突破口とも言える一つの策が浮かんだのだ。
この状況を打開する策。
チェリーさん、猫神猫、エルティさん、誰もキルされずに済む方法は、これしかないように思えた。
「残念だったな。俺は学生時代サッカー部だったんだ。だからタイムアウトはルールにない。試合終了だ」
リーダー格の男は言う。
「サッカー部ならハーフタイムがあるだろうに。例えば今が試合終了のホイッスルならば、僕たちは九十分を通して試合をしていたことになる。サッカー連盟が黙ってはいないんじゃあないかなあ?」
…………
スゲーなあの人……
今際の際で、とんでもない屁理屈を展開している。
本当に口から生まれてきたんじゃないのだろうか。
こちらを窺っているから、時間を稼いでいる間に早く行けってことなんだろうけれど。
だが、それでいい。
こっちはこっちで、逃げるわけにはいかなくなった。
なるべく時間を稼いでくれよ。
俺とチェリーさんのあいだで目的は違えど、しかし時間を稼ぐという手段は重なる。
作戦開始だ。
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