アポフィライト

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「さてと」 フルフェイスのヘルメットのようにも見えるインターフェースを頭からかぶる。 頭の横に備え付けられている電源スイッチを入れ、ログインボタンを選択した。 勿体つけた前口上なんてものはなく、いつどうしてこのゲームを始めたのか、明確な理由も線引きもなかった。 ただ、何となく始めていた。 ライフォールオンライン。 今世界中で爆発的な人気を誇る、没入型VRMMORPGだ。 情報通信技術の飛躍的な発展により、このインターフェースをつけている間は、あたかもゲームの中に転送されているかのような体感が可能なのだ。 ゲーム内ではお互いの身体に触れられることは勿論、飲食も可能だ。 プレイヤーやモブに攻撃を受ければ、軽度ではあるが痛みも感じる。 さすがにゲーム内で死亡しても、まさか実際に死ぬなんてことはないし、痛みを感じても現実世界の身体には何の影響もない。 ライフォールオンラインが、数あるVRMMORPGの中でも群を抜いて人気である理由は、圧倒的な自由度に加えて、この痛みを感じる『ペインシステム』の精巧さが理由にあった。  「くく。お前弱いなー」 ドーナツ型をした模擬試合場。 通称『無限フィールド』で、目の前の二丁拳銃のガンマンを相手に、俺は仰向けに倒れていた。 ライフォールオンラインの世界における、プレイヤーキルペナルティ、即ち、プレイヤー対プレイヤーのバトルで、PK(プレイヤーキル)されて死んだ際の制裁措置は、仰向けの格好で十分間身動きが取れないというものだった。 平たく言えば、俺は模擬試合でこいつにやられたということだ。
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