病院のタクシー

1/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

病院のタクシー

 虫歯が悪化して医者に通うことになった。  家から一番近いのが市営の総合病院で、評判の方も上々だ。  早速診察を受け、週一で通うことになった。  近いから通院は楽だし、治療も丁寧。いい医者に当たったなと思う。でも一つだけ不満がある。それは精算時の待ち時間だ。  総合病院なので、精算は一カ所の受け付けで行われる。窓口は複数あるけれど、全科合同だからともかく時間がかかる。  最初は心底イライラした。でも今は、こういうものだと諦めて、人間観察とかをして時間を潰している。  そんな中、最近、とあるタクシーが気になるようになった。  規定のタクシー乗り場には決して停まらないタクシー。いつも敷地の端っこに停車していて、そこでお客を待っている。  派手な紫色で目立つから、そんな所で…客待ちをしたらダメだと、病院側から注意を受けそうなものだけど、そんな様子は一切なく、稀にやって来る客を乗せて去って行く。  いいのか、あれ。でも、普通に出入りしている以上、許可が下りてるのかもしれないな。  だとしたら、どうしてあのタクシーだけ、あの場所が停車位置なんだろう。  色んなことが気になって、もう、見てるだけじゃいられなくなった。  一度、あのタクシーに乗ってみよう。  自宅は徒歩でも十分程度。初乗り料金で行ける距離だから、運転手さんは嫌がりそうだけど、こっちの負担は少なくてすむ。  治療を終え、総合待合室で外を窺う。紫の車体はいつもの場所にいた。  誰も乗ってくれるなよ。  祈るように順番を待ち、どうにか精算を終えて、俺はすぐさまタクシーの所へ向かった。  近づくと後部座席のドアが開いた。だけど、俺が乗り込もうとした途端、ドアは閉じた。代わりに少しだけ助手席の窓が開く。 「…お客さんは乗せられませんよ」  いきなりの乗車拒否に面食らっていると、再び後部座席のドアが開いた。そこに、いつの間にこの場にいたのか、腰の曲がったおじいさんがするりと乗り込む。 「あ」  俺はダメなのにこの人はどうしていいのか。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!