5人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
病院のタクシー
虫歯が悪化して医者に通うことになった。
家から一番近いのが市営の総合病院で、評判の方も上々だ。
早速診察を受け、週一で通うことになった。
近いから通院は楽だし、治療も丁寧。いい医者に当たったなと思う。でも一つだけ不満がある。それは精算時の待ち時間だ。
総合病院なので、精算は一カ所の受け付けで行われる。窓口は複数あるけれど、全科合同だからともかく時間がかかる。
最初は心底イライラした。でも今は、こういうものだと諦めて、人間観察とかをして時間を潰している。
そんな中、最近、とあるタクシーが気になるようになった。
規定のタクシー乗り場には決して停まらないタクシー。いつも敷地の端っこに停車していて、そこでお客を待っている。
派手な紫色で目立つから、そんな所で…客待ちをしたらダメだと、病院側から注意を受けそうなものだけど、そんな様子は一切なく、稀にやって来る客を乗せて去って行く。
いいのか、あれ。でも、普通に出入りしている以上、許可が下りてるのかもしれないな。
だとしたら、どうしてあのタクシーだけ、あの場所が停車位置なんだろう。
色んなことが気になって、もう、見てるだけじゃいられなくなった。
一度、あのタクシーに乗ってみよう。
自宅は徒歩でも十分程度。初乗り料金で行ける距離だから、運転手さんは嫌がりそうだけど、こっちの負担は少なくてすむ。
治療を終え、総合待合室で外を窺う。紫の車体はいつもの場所にいた。
誰も乗ってくれるなよ。
祈るように順番を待ち、どうにか精算を終えて、俺はすぐさまタクシーの所へ向かった。
近づくと後部座席のドアが開いた。だけど、俺が乗り込もうとした途端、ドアは閉じた。代わりに少しだけ助手席の窓が開く。
「…お客さんは乗せられませんよ」
いきなりの乗車拒否に面食らっていると、再び後部座席のドアが開いた。そこに、いつの間にこの場にいたのか、腰の曲がったおじいさんがするりと乗り込む。
「あ」
俺はダメなのにこの人はどうしていいのか。
最初のコメントを投稿しよう!