第10章  迷路の底

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「はい。あの、すみません……」 しかし彼は、近くにあったティッシュを数枚引き抜き 彼女に渡すと、やっぱり優しい声で言う。 「謝ることなんかないよ。それに良ければ、僕の仕事部屋で休んでて。 話たければ、そこで聞くよ」 那々は、少しだけ迷った。 リビングに立花たちの声が戻っていないということは、 まだ月食は続いているのだろう。 だが彼女は、とてもそれを一緒に楽しむ気にはなれない。 それに、このまま胸の内を吐き出してしまいたいという衝動の裏側で やっぱり大人の理性がそれを止めてもくる。
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