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「……!ごめんなさいっ!」
小さく悲鳴のような声をあげて、少女はそこから逃げるように走り去る。
「待っ」
待って。
ワタルはそう言おうとして、空中に手を伸ばして、やめた。
校舎の裏手。
人影は今は、無い。
はぁぁぁ、と大きなため息をついて、壁に寄りかかった。
先程から小雨が降っている。
傘が必要な程では無いものの、ずっとここにいる訳にもいかないだろう。
「今年も諦めるしか無いかぁ……。」
一週間後、校内で行われるダンスパーティに一緒に行ってくれる相手を見つけないといけない。
ワタルの容姿は中の下……いや、下の上かもしれない。
太ってはいないし、痩せすぎてもいないと自分では思う。
成績だって中位。
運動神経も中くらいか。
顔は……顔が、残念なのだ。
ブサメンではないと思いたい。
頼む、そうであってくれ。
でないと立ち直れないから。
自分を見て逃げる女子がさすがにいない、から、気持ち悪がられてはいないと思っていた。
それがこのザマだ。
文化祭準備中のこの期間、やたらとカップルが成立している。
俺だって、かわいい女の子と付き合いたい。
今この機会を逃したら、一生女の子と付き合えない気がする。
文化祭最終日にはダンスパーティが行われる。
男女のペアであれば入場できるのだが、『男女のペア』……というその条件のせいでワタルは入場できない。
別に出なくても問題はないのだが、入場だけの相手とは言え、行かなければ、クラス中で、バカにされるのだ、去年みたいに。
『イケメンなのに顔が怖いせいで女の子が寄り付かない』のなら割りきれる。イケメンだから。
そういうヤツは最終的にかわいい女の子とキャッキャウフフ……クソ、羨ましい、呪われろ。
『ダンスパーティ会場に入場するときだけ一緒に頼めないか』
これが、普通男子のスローガンだ。
モテるヤツは女の子からお誘いがかかる。よりどりみどりだ。爆発しろ。
そうやってワタルが運命を呪っていると、赤い傘が現れた。
「……あ、いたいたっ!」
可愛らしい声だ。
ワタルは辺りを見回した。
彼女がいるということは、他に人がいたのかもしれない。
今のアレ……クラスのおとなしめの女子に『ダンスパーティ会場に一緒に行くだけでも頼めないか』というお願いが断られたこの状況を、見られていたとしたら恥ずかしすぎる。
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