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そうだ、診察室に飾ってあった絵も富士だった。
わたしの脳裏に、緒方君と再会したあの日、診察室で観た絵が呼び起こされた。
そういえば、絵、全体のタッチが似てる気がする。
既視感はそのせい?
でも、違う。
やっぱり、それ以前にこの絵を、何処かで観た気がしてならなかった。
わたしはドアを閉めた緒方君を振り向いた。
「緒方君、素敵な絵ね。
どうして、床に?
壁に掛けると、良さそうなのに……」
ああそれはね、とスリッパを出してくれながら緒方君。
「僕の……親戚、が描いた絵なんだけど、譲って欲しい、という人が現れたから、手離すことにしたんだ。
だから、埃を拭きとったりする為に下ろしたんだ。
今は引き取りにくるのを待ってる状態」
「譲って、しまうの?」
「そうなんだ、それが一番良さそうだと思ったんだ。
この絵の為にも、僕の為にも」
僕の為にも?
緒方君の言葉がわたしの胸に何かしこりのようなものを残した。
親戚が、描いた絵?
親戚?
何故か、その言葉がとても意味深に胸に響いた。
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