カルテ12 『どうして欲しい?』

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 そうだ、診察室に飾ってあった絵も富士だった。  わたしの脳裏に、緒方君と再会したあの日、診察室で観た絵が呼び起こされた。 そういえば、絵、全体のタッチが似てる気がする。 既視感はそのせい?  でも、違う。 やっぱり、それ以前にこの絵を、何処かで観た気がしてならなかった。 わたしはドアを閉めた緒方君を振り向いた。 「緒方君、素敵な絵ね。 どうして、床に? 壁に掛けると、良さそうなのに……」  ああそれはね、とスリッパを出してくれながら緒方君。 「僕の……親戚、が描いた絵なんだけど、譲って欲しい、という人が現れたから、手離すことにしたんだ。 だから、埃を拭きとったりする為に下ろしたんだ。 今は引き取りにくるのを待ってる状態」 「譲って、しまうの?」 「そうなんだ、それが一番良さそうだと思ったんだ。 この絵の為にも、僕の為にも」  僕の為にも?  緒方君の言葉がわたしの胸に何かしこりのようなものを残した。  親戚が、描いた絵?  親戚?  何故か、その言葉がとても意味深に胸に響いた。
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