カルテ1 可愛くなんてなれなくて

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聞こえてしまった話しの内容だけに、今さら、あら、久しぶり! なんて言えない。  気付かないふりをして財布だけ持ってレジカウンターに向かった時だった。 「私、知ってるわよ。 大きな法律事務所の所長さんと結婚決まっていたのに、それをフッたんでしょ」  そして、クスクスと笑う声に混じって聞こえたのが。 「ちょっと綺麗だからって、選り好みしてるから――」  自分のこと、綺麗だなんて思ったことないわ。 選り好みだってしていない。 わたしはただ、本当に好きになった一人の男を忘れられなかっただけなの。 たった一人の男しか、愛せなかったの。  初めての男。 別れてくっ付いて、を繰り返して。 諦めようとしたこともあったけど。  駄目だった。 駄目だったのよ。 どんな時も、どんな男と一緒の時も。 彼の姿がチラついて、消えなかった。  だから――。 「そういえば、高校の時に翠川さん付き合っていた彼がいたじゃない。 ほら野球部のキャプテンですごくカッコよかった――」
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