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聞こえてしまった話しの内容だけに、今さら、あら、久しぶり! なんて言えない。
気付かないふりをして財布だけ持ってレジカウンターに向かった時だった。
「私、知ってるわよ。
大きな法律事務所の所長さんと結婚決まっていたのに、それをフッたんでしょ」
そして、クスクスと笑う声に混じって聞こえたのが。
「ちょっと綺麗だからって、選り好みしてるから――」
自分のこと、綺麗だなんて思ったことないわ。
選り好みだってしていない。
わたしはただ、本当に好きになった一人の男を忘れられなかっただけなの。
たった一人の男しか、愛せなかったの。
初めての男。
別れてくっ付いて、を繰り返して。
諦めようとしたこともあったけど。
駄目だった。
駄目だったのよ。
どんな時も、どんな男と一緒の時も。
彼の姿がチラついて、消えなかった。
だから――。
「そういえば、高校の時に翠川さん付き合っていた彼がいたじゃない。
ほら野球部のキャプテンですごくカッコよかった――」
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