カルテ1 可愛くなんてなれなくて

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 わたしの足は、カウンターの前を素通りし、店の奥へ向かっていた。 「お久しぶり~。元気だった?」  わたしに声を掛けられて、二人はびくっと顔を上げた。 「あら、翠川さん。 久しぶり~」 「ほんと、こんなところで会うなんて」  わざとらしい。 そう呟きたくなる嫌悪感は胸の中にしまい込む。 「あら、だって~、生憎ここはわたしの生活圏ですもの。 高校時代からわたしのテリトリーは変わらないのよ」  二人はわたしを見上げて顔をひきつらせながら、 「そうね、そうだったわね」  とお愛想笑い。  フン、だ。 もっとどぎまぎさせてあげる。 「そうだわ、ご一緒してもいいかしら。 わたし、バッグここに持ってくるから。 久しぶりにお二人の近況も聞きたいわ~」  お二人さんは。 「あ、ごめんなざい! 私、もう帰らなきゃ」 「私も子供のお迎えがあるから」
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