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取ってつけたように携帯で時間を確認して慌てて立ち上がった。
「あらそう? 残念」
わたしは肩を竦めてちょっぴり残念がるフリをして見せた。
そそくさと帰っていった二人の後姿に、小さく舌を出してはみたものの、ふう、とため息が漏れてしまった。
『ため息なんてつくなよ。
一つするごとに一つ幸せが逃げるぞ』
快活に笑ってそう言ってくれた彼の声が脳裏に蘇って、胸に焼き付くような痛みを覚えた。
彼女達の会話、あのままわたしへのイヤミで終わるなら別に放っておいた。
でも、彼の話題になりそうだったから。
そこにだけは持って行って欲しくなかったから。
だから、あんな形で割って入った。
イヤミに意地悪。
わたしはこうやって嫌な女になっていくのかしら。
こうなりたかった訳じゃないのに。
彼に話したら、きっと笑うわね。
「お前、そんなだからいつまでもカレシ出来ねーんだぞ」って。
カラカラってあっけらかんと。
日に焼けて精悍で、わたしをときめかせてやまなかったあの顔をはっきりと思い出してしまって、喉の奥が痛くなった。
放っておいてよ。
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