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「櫻井一尉入ります!」
櫻井と名乗った男は統合幕僚長に呼び出されていた。
「よし、入れ。」
現在の自衛隊の統合幕僚長は海自、つまり海上自衛隊が務めている。
「さっそくだが、辞令だ。櫻井一等海尉には三等海佐に昇進してもらう。」
「はっ!」
櫻井は額に汗を浮かべながら辞令を受けとる。
「それでなんだが、君には特例で新鋭艦の艦長を務めてもらいたい。」
「三等海佐が護衛艦の艦長は異例ですよ、よりによって新鋭艦なんて.......私には荷が重いです。」
櫻井は丁寧に断った。そもそも櫻井は防衛大学卒ではない、一般公募から幹部になったタイプの幹部だ。
「すまんな、荷が重いのは重々承知の上だ。もう優秀な一佐はほとんどの艦に配置し、しかもだいたいが排他的経済水域付近にいる。もう防大卒とか言っている暇はないんだ。」
櫻井に海上自衛隊の今の状況がよくわかった。
「わかりました慎んでお受けします。」
「うむ、よろしく頼む。」
その夜、櫻井は高校の同窓会に向かい、会場の居酒屋を到着していた。
居酒屋には懐かしい連中が5人ほど来ているらしい。
「おお、祐介じゃね~か、久しぶりじゃん。」
「祐介くん!?久しぶり~!」
「ゆーちゃんじゃん!おひさ~」
案内された個室には高校の友達の、吉川、中田、高井、前場、島田が来ていた。みんな懐かしい。
しかしお酒が入っているのか昔よりしつこい。
「お前らもう出来上がってるじゃねーか。酒クセッ。」
テーブルの上を見ると5、6本ビール瓶が転がっていた。
「お前も飲むか?」
「いや、明日仕事だから。」
吉川は櫻井に千鳥足で寄ってきてビール瓶をちらつかせてくる。
「おい、仕事ってなんだよ!警察官か?消防士か?酒が飲めねー仕事ってなんだよ!」
酔っぱらいは面倒だと思いながら櫻井はボソッと言った。
「海自だよ。」
さっきまでワイワイ喋っていた酒場全体がシンと静まりかえった。
「お、お前が自衛官!?」
中田があたりめをくわえながら聞いてくる。
「じ、じゃあさ、明日からの仕事って....まさか。」
「あんまり詳しくは言えないけど実戦に向けての準備だよ。」
櫻井は手に持っていた烏龍茶を一気に飲み干した。
「死んじゃうの?櫻井くんは生きて帰ってくるんだよね?」
「約束はできないよ。」
そういって櫻井は逃げる形で居酒屋を出た。
「戦争の闇はもうここまで来ていたのか。」
櫻井はそう呟いて帰路についた。
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