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「うん。実はね……」  会社を出てからの出来事を細かく話して聞かせると、 「そんなやつと会うことなんかない。なんだよそいつ。いくら自分に非があったって言っても初対面の稀世を自宅にあげるなんてろくなやつじゃないに決まってるだろ。紳士ぶってるやつほど腹ん中じゃ何考えてるかわかんないんだからな。クリーニングなら俺が取りに行ってやる」 「そういうわけにはいかないよ。この服だって返さなきゃいけないし」  言いながら借りた服を摘まんで見せると顔を顰める。 「どうりで見たことない服だと思ったんだよ。こんな襟ぐりの広いチャラチャラしたセーターなんて稀世には似合わないからな」  チャラチャラしたセーターとはまた偏見が酷い。襟ぐりがざっくりとしたゆるふわなニットは確かに稀世が買うタイプのものではなかったが、それなりに気に入っていたから少しショックだった。
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