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「じゃーそういうわけだから、またなー」
「あっ、おい!」
俺の時は初対面からあんな質問をしてきたのに、一体この違いは何だろうと俺が不思議に思っている内に、桜町は握っていた手をさっさと離すと勝手に牧野に別れを告げ部屋の扉を締めた。
俺はまだお前のことに関して肝心なことは何も言っていないというのに。思わず恨みがましい視線を向けるが、桜町は視力が悪いんじゃないかと思うくらいにちっとも意に介すことなくニコニコと笑っている。
これは何を言っても無駄そうだ。最早諦めを抱いた俺は、深い溜め息を吐くとすたすた廊下を歩き出した。
「あれ、キミヒロ? そっち部屋じゃないぞー?」
「……コンビニにでも行ってくる」
本当にコンビニに行く気はないが、ひとまずこいつと離れて冷静になろう。もしもまた付いて来ようとしたら……どうしようか。ちょっと頭を悩ませたが、桜町は「そっかー、早く帰って来いよー」と朗らかに手を振って見送るだけだった。
寮の玄関を出ると、空には黒い雲がどんよりと覆っていて、今にでも一雨降りそうな天気だった。
……あー、どうしようか、これ。
やっぱり出歩くのはよそうかとも思ったが、すぐにあの転入生がいる部屋へ戻るのも何だか嫌だった。第一それでは気分転換にならない。
降ってきたらコンビニで傘でも買えばいいか、と曇天の下へ足を踏み出す。そうして暫く歩いていると、ただでさえ暗かった空がますます暗く、それこそ夜にでもなったのではないかと錯覚してしまう程になっていった。
これは、やっぱり、出歩かない方が良かったかもしれない。
踵を返して元来た道を戻る。すると一つ、また一つと道路の脇の街灯に明かりが灯っていった。
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