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女が意識を取り戻すと、目の前に夫が座っていた。やけに緊張した面持ちで。
「結婚してください」
そんなことを言ってくる。これは夢? 女は落ちつきなく視線を巡らす。やわらかな照明の下、花の飾られた食卓でなごやかに食事を楽しむ人々。
ああ、ここには見覚えがある。彼からのプロポーズを受けた場所だ。
あの時と同じ場所。
同じ服。
同じ台詞。
まるで時間を巻き戻したかのように。
もしかしたら、ここでプロポーズを拒否すれば違う人生を歩めるのではないか? かすかな期待と希望が頭をもたげる。しかし、彼女の唇からこぼれたのは、
「はい」
という一言だった。まるで、逆らいがたい、何か大きな力に導かれるように。
けれどこれで良いのだ。今だって誰よりも彼を愛しているのだから。
そして、女は気づく。
そうだ、今度は車を絶対に買わせなければ良いのだ、と。
再び二人の生活が始まった。
今日も女は腕によりをかけた料理を並べて、愛する夫に微笑み、告げる。
「あなたは稼いでくれているんだから、健康でいてもらわなきゃ。さあ、召し上がれ!!」
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