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「で、でも、やっぱり人が嫌がることは……」
「いいよ。弥生ちゃん」
なおも言い募ろうとする弥生ちゃんを、私は止めた。女の子の方が口が上手いなんて話も聞いたことがあるけど、この二人にはその常識は当てはまらない。弥生ちゃんは、律には勝てない。
それに、私は傷付いてなんかない。
「……大丈夫だから」
弥生ちゃんに、安心させるように笑いかける。
私は動揺しない。律がどれだけ揺さぶりをかけてきても。真白が、どれだけ好かれても。
前に一度、偶然、彼がクラスの女子から告白を受けてる場面に遭遇したことがある。それも、他の学年の男子からも人気があると評判の美少女から。
だけど、顔を真っ赤にしている女の子とは対称的に、真白は一瞬も涼しい顔を崩さなくて。
「僕、結婚の約束してる子がいるんだ。その子以外の女の子とどうこうなるつもりはないから」
謝罪もなく、笑いもせず、小さな鈴みたいに軽やかな声で、彼女の気持ちをさらりと切った。
そうして校舎へと戻る途中、彼は影から覗き見てしまっていた私に気付くと、「りっちゃん」って私を呼びながらすぐに駆け寄ってきて、しっかり手を取ってくれた。私を虜にする、色っぽい微笑みを浮かべて。
安心とときめきに縛りつけられた私は、それ以来、真白と、彼との約束を、一切疑わなくなった。
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