甘美な呪い

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 じわじわと込み上げるのは、妙な焦り。不穏な鼓動。混在していく、予感と恐怖。 『もちろん、俺は即断ったけどな? 男になんか興味ねーし。それ以前に、俺はその頃からもう弥生と結婚する気でいたし』 「それで? それで、真白は何て……」 『いやー、そう言ったら泣かれてさ。『どうしたらずっと一緒にいてくれるの』って、あいつすごい剣幕で詰め寄ってくるもんだから、俺、あんまり深く考えないで言っちまったんだよ。『じゃあお前は理沙と結婚すれば?』って』  頭の片隅。今まで全く触れてなかった場所で、何かが綺麗に嵌まる音がする。 『『俺と理沙は兄妹だから、理沙とお前が結婚すれば、俺とお前も家族になるだろ』って』  その一言が、全ての空白を埋めた。 『ま、んなこと、あいつはもう忘れてんだろーけどなー。俺も、今の今まで忘れてたわ』  軽い調子で過去を楽しんでいる律に、私は笑い返す気になれない。  知らなければ、本物だと信じ切った幸福に、ひたすら身を投じていられたのに。 『あ、やべ。これから弥生と待ち合わせしてるからもう行くわ。んじゃなっ』  私の心を波立たせてることに気付かないで、律は浮かれた様子で電話を切った。
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