甘美な呪い

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  「大きくなったら結婚しようよ」  双子の兄の友達、佐藤(さとう) 真白(ましろ)にそう言われたのは、ずっと幼い頃だった。 「結婚?」 「うん。りっちゃんは、僕と結婚するの、嫌?」 「嫌じゃないっ!」  彼の質問に対して、私は即座に首を横に振って、大きな瞳を真っ直ぐ見上げた。  突飛な申し出にも迷いなく出てきた答え。  だって、私はずっと、憧れてた。それどころか、出逢った時から育んできたこの想いは、もうとっくにそんな感情を越えていた。  白い頬も。艶めかしい黒髪も。女の子みたいな可愛い顔も。華奢な腕も。それでいて、腕相撲で兄を簡単に負かす力強さも。何もかもが、私を捕らえて離さない。 「じゃあ、約束」  差し出された綺麗な小指。私は、ドキドキしながらそこに触れて、自分の小指を絡める。 「僕が婿養子になるから。いいよね?」 「むこ…………何?」 「結婚したら、普通は女の人の名字が男の人の名字に変わるでしょ? でも、僕は逆がいいんだ」  可愛らしく微笑みながら、花よりも清浄な香りを撒き散らす真白。 「つまり、りっちゃんが“佐藤 理沙(りさ)”になるんじゃなくて、僕が“雨谷(あめや) 真白”になるってこと。いいでしょ?」 「ふぅん? よく解んないけど、それでいいっ」 「やったぁ! 絶対だよっ」  繋がり合う小指を何度も上下に振り回す真白。二重の漆黒の()が、星みたいに輝いてる。 「結婚しようね。絶対」  甘く幼い空気に酔い、二人で笑い合う。  重ねられた言葉に、単純な私は浮かれてた。そこに愛があると信じて。
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